2008/01/27

Sunday

日曜。
昨日のアンサンブルコンテストでの
生徒たちの勇士を胸に詰めこんで
受験を控える生徒のレッスンに行きました。

彼女は試験の前日、
どんな演奏を聴かせてくれるのだろう、
どこまで完成させているだろう、
どんな気持ちに高めて来ているのだろう、
レッスンに行くのにワクワクして
音楽スタジオのドアを開きました。

彼女はまだ来ていなかった。
それもそのはず、ワクワクし過ぎて早く着いたのだから。

自分の楽器のセッティングを済ませ
ボトルに入った水を飲み干して
私もかつて受験の為に演奏した曲を思い出して
吹いてみました。

始まりの音の深さや響きの作り方によって
最後までの曲の作り方が変わってくる難しい曲でした。
訓練すれば同じ演奏、同じ音が出てくる程、
簡単な楽器ではなく、その時の心の状態、体の状態、
ほんの少しの気持ちの持ち方でいろいろな音が出ます。

恐らく、5年は一度も息を入れてなかったその曲、
古い親友に久しぶりに会った時の感覚に似ていました。
最初は照れ臭いけど、いざ時間が経てば経つほど
色彩が鮮やかに溢れて、水が沁み込んでいく様で
奏でる楽器と自分が一体になるような感じ。
そこまで感じれる曲は、当時相当色々な物を込めて
頑張ってた曲ではないと戻れません。
自分で自信を持っていえるくらい、
私の人生を左右する曲だと信じて
我武者羅に演奏していました。

数分後、彼女はレッスン開始10分前に来ました。
演奏をやめ、彼女のセッティングとウォーミングアップを
じっと見ていました。

いつもよりも心を込めてセッティングをし、
いつもよりも心を込めてウォーミングアップをする姿は、
とても中学生には見えず、立派な本物のプロに見えました。

演奏を始めてもらう前にスタジオのスポットライトを
一点のみ点灯し、他を消してステージを作りました。

楽器を口に運ぶまでのその沈黙、
この一回がどんなに大切かを大事かを理解していた彼女は
私に息をさせませんでした。

本当の本番は翌日。
彼女にとっては私の前での最後のレッスンこそ
翌日の成功につながると思っていたのだと思います。

その演奏は、あまりにもピュアで心打たれました。
感謝の気持ち、音一つひとつを大切にあたたかく演奏してくれました。
初めて彼女の演奏を聴いたのは2年前の春。彼女は小学を卒業したて。
楽器の方が大きいのではないか、と思う程可愛くて
最初は音を出す事もままならず、でも何よりも印象に残っているのは
彼女はいつも楽器を持つと笑顔だった事。


・・・が。
一度演奏で相当な集中とパワーを使いきった彼女は
その後の2時間のレッスンの演奏はガタガタ。
音量も出ず息も持たず・・・
どんなにその一度の演奏に自分を絞り出していたのか感じて
むしろ嬉しかった。

けれど彼女は突然の不調に困惑していたので
楽器を置いて、色々な話をじっくりしました。
日々の事、恋愛の事、家族の事、色いろ。
彼女の好きなカフェオレを飲みながら
受験前日にたあいのない話。

残り20分になり、さて。もう一度最後に通して終わりにしようと思うも
彼女はまた先ほどの演奏で不安を持っていたので
では私が演奏をするわ、と、彼女の受験曲の楽譜を握って
彼女を座らせて、自らスポットライトを調節して
彼女の為に、彼女の未来の為に失敗出来ない事を確信して
心を込めて、彼女一人の為に演奏しました。

演奏終了後、目を開くと彼女が泣いていました。
緊張と不安と入り組んだ感情の中で、まだ14歳の彼女は
必死で気を張って頑張っていたんだなと思いました。

笑顔で抱きしめた後で、最後に聴かせて、と演奏をお願いすると
心を込めて演奏してくれて、なんとか最初の演奏に近い演奏をしてくれました。

レッスンをしている身ですが
本当はむしろ生徒に、いろいろ教えてもらっています。
私はとても幸せな事を感じさせてもらっています。







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